昨日は よみうり文化センター 堺校のティン・ホイッスル体験講座の日。
読売新聞にも広告掲載され、認知度のまだまだ低いティン・ホイッスルと僕なのに、9人もの方が興味を持ってくださり、体験応募をされた。
堺は去年に演奏の仕事で初めて行って以来。偶然にも去年の仕事場のホテルの隣のビルだ。尼崎からは電車を乗り継いで1時間強。電車の中では、90分の持ち時間の中でどんな順番で講義をしようかな、と構成を練る。資料(音源、写真、地図、歌詞や運指表)も準備万端。
初回レッスンは楽器の紹介(歴史・構造・様々な同属楽器)、音楽の紹介(ケルトについて、ブリテン諸島とアイルランド音楽の概説、実演つき)、体験(運指、タンギング、練習曲)がメインになるが、生徒さんの反応に応じて臨機応変に、飽きられないように進める。
解説ばかりにならないよう実例を演奏で示したり、説明が続いたら生徒さんに吹いてもらったりという調子だ。大まかなテンプレートがあるので、いずれは台本を作ってしまえば講義の完成度が上がるかな・・・とも思っていた。
音楽と楽器を基礎から丁寧に教える技術と情熱には自信があった。
開講30分前に堺に着くと、係りの方に教室に案内され、ラジカセやホワイトボードを確認し、資料の整理をする。この流れも慣れたものだ。今日の目的は、ティン・ホイッスルという楽器を知ってもらい、ティン・ホイッスルによっていかに簡単で手軽に音楽を楽しめるのか、魅力を伝えること。
待合室で時間になるのを待っていると、体験を申し込まれたという老齢の女性が、コーヒーを飲みにいらっしゃった。係りの方によると、ケルトの音楽に興味があり、開講を心待ちにしていたそうだ。こうして期待して下さる方がいるのは本当にありがたいことです。
生徒さんが集まり、係りの方に紹介され、教室が始まる。今回のグループは楽器の説明の途中でなんとなく集中力が途切れるのが分かったので、とっさに楽器の体験に切り替え。
楽器と運指表を配布し、いつもやっているとおりに運指を説明する。冗談を交えながらも、どんな人にも視覚的・聴覚的に理解しやすく、確実に音が出るように配慮しながら。
今回の生徒さんの殆どは女性で、年齢層は幅広い。下は僕より若いくらいの方から、上は先ほど見えた女性が最高齢と思われる。「皆さんは小中学校でリコーダーを習われたと思いますが、ティン・ホイッスルはもっと簡単な運指です…」こんな語り口で運指を紹介していく。
みんなで音を出す。確実な音から順番に指を下ろしていく。その途中でひとり、違う音が鳴っている方がおられる。先ほどの老齢の女性が、どうしても左手薬指を適切な位置に置くことができないのだ。
そばに行き、指のここのあたりですよ、と示すのだが、女性がおっしゃるには左手を怪我して手術して以来、うまく薬指が動かないのだそうだ。それでもきっと方法があるはず・・・と思い、手の形や指の形をいろいろ試す。しかし、右手の指に移ったとき、また左手の薬指の位置がずれてしまう…。笛は指を適切な位置に置かないと、目的の音が鳴らない楽器だ。
しかしグループ・レッスンなので、みなを置いて一人だけにレッスンを時間を割くわけには行かない。かといって、一人を置いてけぼりにはできない。葛藤していると時間がどんどん無くなるので、運指をそこそこに実演に切り替えて、それが終わったら今度は運指が関係ないタンギングの練習に切り替えて…。タンギングの練習ではその方はきちんと理解して、とても上手に音を切ってられたので、安心。
時間を押してしまい、目標だった3曲の練習曲(童謡など)のうち1曲しかできなかったが、なんとか2オクターブ目の出し方、C#とCナチュラルの出し方を講義して、次回につなぐことにする。
講義をなんとか終えて、運指の良い解決法を探せないものかと女性にお話に行く。すると、昭和一桁代のお生まれのその方は、戦前の小学校(国民学校)では物資が足りず、リコーダーや楽器は習わなかったそうだ。だから、今日生まれて初めて笛を吹いた、とのこと。
リコーダーは学校で皆が習うものだと思っていた自分の無知に愕然とした。なんてもの知らずだったんだろう。
これだけ親切丁寧に説明しているのだから、どなたにも分かってもらえるだろうと思っていた運指の解説。しかし、笛を始めて吹くのだから、理解できないのも当然かも知れないと、自分の傲慢さを反省した。
そして、高齢になっても新しい楽器に挑戦される意気込みに、ケルトの音楽を習いたいと切望されていたご期待に応えられるように頑張らなくては、と決意を改めたのだった。
ティン・ホイッスルやアイルランドの音楽に興味を持ってくださった方全員に、音楽の楽しさや素晴らしさを分かち合ってほしい。技術や理論よりも、仲間と集まって演奏する楽しさを第一に伝えたい。ついていけない人が、自分のせいで周りの生徒に迷惑をかけていると思ってほしくない。参加者全員が仲間意識を持って、お互いに助け合いながら音楽を楽しんでほしい。
そのためには、教師としてどうしたらよいのだろう。
音楽を教えてもう5年になる。昔は、既になんらかの楽器を演奏していてアイルランドの音楽に興味を持っている若年層が生徒さんの中心だったが、大手のカルチャー講座を担当するようになって、楽器未経験者で、アイルランドの音楽を聴いたことがない、幅広い年齢層の生徒さん(下は小学生、上は70代)に教える機会を頂けるようになった。
これまでの5年の間に教師としての経験を積み、どのような仕組みで演奏が成り立ち、どのようなステップを踏めば無理なく上達できるかの方法論には自信を持っている。しかし、人間はティン・ホイッスルのような工業製品の規格品ではない。誰にでも通用するメソッドなんて存在しない。これだけ教えたら、これだけ上達していて欲しいと思うのは教師のおごりだ。
教える技術には自信がある、と自惚れている場合ではない。教師として更に経験を積み、一皮むけるようにこちらも必死に頑張らねばならない。
体験をした9人中7人の方が即時に入会していただき、好調のスタートを切ることになったが、次期も全員が継続して頂けるかどうか、僕の資質が試されている。